ⅢⅩⅤ 　人間とは傲慢で怠慢な生き物だ。欲望のためならば他人を簡単に切り捨てる。彼らは他者を蹴落とす利己的な生き物だ。 　ティモシーは、幼い頃から曾祖母にずっとそう教えられてきた。 　しかし、これはどういうことだろう。セシルにしても、ヴィンセントにしても、彼らは自分に恨みごとのひとつも言わずに去っていった。 「なぜだ、人間はいつだって利己的な生き物だ。それなのに、なぜお前たちは自分を捨ててまで他人を助けようとする？」 　頭を抱え、蹲るティモシーの黒水晶にも似たその目からは涙が零れ、頬を伝った。 　呪いを掛けたのは自分だ。目の前には化け物へと姿を変えた憎き仇がいるのに、ヴィンセントはティモシーを責めない。 　おそらく、それは受容だ。彼は化け物の己を否定することなく、ここにある現実を受け入れていたのだ。 　果たしてティモシーが出会った人間の中でそのような者はいただろうか。――いや。百をも超える不老不死という魔女一族の自分が生きてきた中で初めて目にした。直面したこの事実に、彼女は今、頭打ちを食らっていた。 「それが愛だよ、ティモシー。利己を制し、自分の心と相手を重んじる。それこそが愛だ」 　ダイモンは、我を失い、戸惑っている彼女の頭をそっと撫でた。それはまるで、妹を思いやる兄のように――。 「わたしは！！　お前たちが憎かった！　わたしを裏切った貴方も、わたしから愛する夫を奪ったイブリンも！！」