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自己よりも他者。
ティモシーは思いやりの心を見せるダイモンの手を払い除け、睨んだ。彼女のその目には憎しみの炎が宿っている。しかし、その中でもほんの少し、違う何かが生まれていることに、イブリンたちは感じ取っていた。
「だから……だからわたしは貴方たちが大切にしている子供に呪いを掛けたわ」
そして、これ以上呪われたくなくば、自分の傍にいろと条件を出し、ダイモンを拘束し、イブリンたちをダイモンから引き離した。心を憎しみに委ねた。
しかし、セシルは自分とは違った。深い憎しみに染まらず、彼はヴィンセントを助けたいその一身で自らの命を差し出した。
ヴィンセントにしてもそうだ。セシルを死に貶めたティモシーを憎むことなく、自ら命を絶とうとしている。
これまで自分が信じていた愛とは違う感情。強固でいるのに柔らかで、何があってもけっして壊れないもの。
そこでティモシーは、はっとした。果たして自分が抱いていた感情は、誰かを愛おしむ気持ちだっただろうか、と――。
ヴィンセントのために呪いを解こうと命を絶ったセシル。セシルのために命の危険も顧みず、太陽の光に焼かれて死ぬというリスクを冒してまでここへやって来たヴィンセント。
だが、自分は違った。夫に裏切られ、果ては外で不義の子まで作られた。国の皆に白い目で後ろ指を差された自分はただ、恥をかかされたことに怒りを感じた。ティモシーは夫婦の契りを交わしたダイモンに裏切られたことで不老不死の魔女一族として完璧で在り続けようとする自尊心を傷付けた。
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