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地獄。

 ⅢⅩⅧ  ヴィンセントは深い闇の中にいた。自分は今目を閉じているのか、それとも開いているのか。それさえも判らず、視界は闇で覆われ、何も見えない。  父親のダイモンとの予期せぬ再会。そしてセシルの死。焼け死ぬ目的で太陽の下に出た自分。  状況から察するに、おそらくここは地獄に違いない。なにせ自分はセシルをこの世へと呼び戻し、闇に生きる化け物へと変身させた張本人だ。裁かれても仕方がないことをしでかした。  せめてもの救いは、ここにセシルがいないことだ。清らかなあの魂はきちんと天国へ逝けただろうか。  いや、おそらくは天国にいる彼の両親の元に辿り着けたはずだ。  深い闇に堕ちたヴィンセントは今度こそ彼が幸せであるよう、祈ることしかできない。 「セシル、すまない」  高熱を出し、生死を彷徨ったあの五歳になる少年を、自己満足のために現世に留まらせたのがそもそもの間違いだった。たとえ彼の両親が生を願ったとしても、それでも拒否していれば、セシルは少しばかりの苦しみを抱くだけで天国に逝けただろうに……。  そうして、あと数年もすれば彼の両親はセシルを追って天国へ昇ったし、継母や義理の姉にいじめられることもなく、況してや自分と関わり合うこともなかった。――自らに刃を向ける状況にもなっていなかったのだ。  ヴィンセントは願う。今度セシルが生まれ変わる時は、自分よりもずっと心優しい人と出会い、愛し、愛されて過ごせるようにと――

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