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謝罪。
身体が闇に飲み込まれていくのが判る。ヴィンセントは抵抗することなく、静かに身を委ねた。
「ヴィンセント」
自分を覆い尽くす闇に従い染まっていくと、ふと、誰かに呼ばれた気がした。
「ヴィンセント……」
(ああ、まただ。また聞こえた)
その声は忘れもしない。ヴィンセントが誰よりも心を寄せている彼、セシルだ。
「セシル?」
(ぼくを呼ぶのは君なのか?)
しかし、声はするが姿は見えない。依然として暗闇が広がる中、ヴィンセントが愛おしい彼へと手を伸ばせば――指先から光が満ち溢れていく……。
闇の世界が掻き消え、たちまち眩い光へと変わった。
「ヴィンセント、わたしが愚かでした。愛というものを誤解していたのです。謝罪の証として、わたしの持ち得る魔力を以て、すべて元に戻します。貴方の姿も、何もかもを――。……でも、よかった。彼は貴方のことがよっぽど好きなのね、魂が貴方の肉体から離れずにいてくれた。正直、彼はもう手遅れだと思いましたが、貴方への慕情のおかげで魂を呼び寄せることができました……本当にごめんなさい」
セシルの声に変わって次に聞こえたのは女性の声だった。
彼女は――。
聞こえた女性の声が誰のものなのかを理解した途端だった。ヴィンセントは瞼を開けた。
「ヴィンセント!!」
目の前には漆黒の髪に、整った双眸が心配そうに覗き込んでいた。自分に呼んでいたのはセシルではなく、どうやら従弟だったらしい。そうれもそうだろう。セシルはヴァンパイアに変身させた自分を恨んでいる。
セシルがヴィンセントの名を呼ぶはずもないのだ。
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