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そして夕暮れ。
なにせカールトン卿は律儀にもセシルの両親と交わした約束を守ろうとしているだけなのだ。その彼に対して自分はどうだろう。ただ側にいたいというそれだけの理由で両親との間に交わされた約束を利用している。
彼はそんな自分をどう思うだろう。きっと汚らわしいと思うに違いない。
結局、最後には嫌われてしまうのなら、せめてもう少し側にいたい。
セシルはそう願いながら、ショースの最後の仕上げに取り掛かる。|斯《か》くして、ショースが出来上がった。
その日の夕暮れ。公務を終えたカールトン卿は寝室に赴いてくれた。今日という日を迎えて十五時間ぶりの逢瀬だ。
(ああ、ヴィンセントは今日もハンサムだ)
こうして彼と顔を見合わせただけでもセシルの胸が大きく高鳴る。
けれども今はそればかりではない。今日は彼に渡すものがある。
セシルの胸は今や押し潰れそうになるほどの緊張を抱えていた。
「あの、これ。ショースですが、もしよかったら……」
セシルは震える両手を伸ばし、手にしている茶褐色の包みを差し出した。
包みの中には自分が編んだショースが入っている。
もし、いらないと言われたら――。そう思うと胸の痛みが増す。だから顔を俯け、祈るような気持ちで彼の返事を待つ。
緊張しているおかげで心臓が大きく鼓動し、息が乱れる。手も足も、怖くもないのにガタガタと震えるばかりだ。
「これをぼくに?」
「あの、イブリンに教えて頂きながら編んだものなので上手くできなくて……でも一生懸命編んだので、よかったら……」
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