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美しい女性。
屋敷の中では、イブリンが自分を探している。彼女に見つかれば、ひとたびこの掃除は中断され、食事と編み物の時間になってしまう。セシルがどんなに身体を動かしたいと告げても、彼女はけっして首を縦に振らない。自分は身の程をわきまえなければならないというのに、これでは何もできない。
この屋敷が広くてよかったと、セシルは心底思う。もっぱら最近の自分はこうして彼女と追いかけっこをしながら、甲斐甲斐しく掃除を続けていた。
「こんにちは」
庭に溜まった落ち葉を掃いていると、突然柵の外から女性の軽やかな声が聞こえた。
びっくりして顔を上げれば、そこには年の頃なら三十歳前後の女性が立っていた。彼女はどうやら買い物の途中らしい。白のハイネックドレス姿に、細い腕にはバケットを引っかけていた。
彼女はとても綺麗だった。闇夜のように深い黒をした艶やかなその髪は後ろに束ねられ、おかげで彼女の透き通るような白い肌が映えている。二重の大きな目と、小さな鼻。ふっくらとした赤い唇に、それから尖った顎。細身でありながらもふくよかな胸を持つ彼女は、おそらく男性から言い寄られる回数なんて数え切れないほどあるだろう。
果たして自分はその美しい女性と知り合いだっただろうか。
いや、自分は今までカールトン邸に閉じこもりきりだったから、これほどまで美しい女性を見る機会は殆どない。だから彼女とは面識がないはずだ。当然、ハーキュリーズ家にいた頃はもっと始末が悪く、継母や義理の姉に扱き使われていた。女性と話す機会さえ設けられなかった。
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