たしかに、彼が日中に姿を現したことはなかった。しかしそれは公務で忙しいからだ。自分の父親が伯爵という身分だったから、貴族がどんなに忙しいのかを身に染みて知っている。王のために遠征の途に出たりもした。それが公爵ともなれば、その倍以上は公務に注ぎ込まれるだろう。 「たしかに、日中はカールトン卿と顔を合わせたことはありません。でも、彼は公務に忙しくて、だから……」 　セシルが反論しようとすれば、 「どうしても信じられないのなら、地下に行って確かめればいいわ。どこかの部屋に柩があることでしょう。彼はそこで眠っているはずだから――」 　彼女は核心があるのか、強い口調で答えた。 「でも！　僕は太陽の下に出られます！」 　たしか彼女は先ほど、『セシルはヴァンパイアになりかけている』とそう言った。けれども自分は今、太陽の下を堂々と動いていられる。やはり彼女の言っていることは間違いだ。 　自分に言い聞かせるセシルを尻目に、けれども彼女はさらに追い打ちを掛けてきた。 「今は、ね。貴方の場合、ゆっくりとヴァンパイアに変身を遂げさせられているのでしょう。もっと時を重ねれば、いつかはあの悪魔と同じように太陽を拝めなくなるわ。貴方のその髪と目。それはいつからかしら？　生まれつきではないでしょう？」 　尋ねられ、セシルははっとした。 　たしかに、この髪と目の色は生まれつきではない。今ではすっかりこの色になっていたが、昔はたしか、髪はブロンド。目の色はエメラルドだったはずだ。