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彼らに降りかかる厄。

「そうね、当事者のイブリンやヴィンセントがこの話を自分たちからできるはずもないわね」  彼女は重いため息をつき、渋々といった様子で話しはじめた。 「それはイブリンが十六の時だったわ。あの頃のイブリンは今と変わらず愛らしく、可憐だった。――社交界デビューを果たしたばかりの頃よ。イブリンに一人の男性が声を掛けてきたの。彼はとても美しい男性でね、ひと目見た誰しもが心を奪われたわ。そしてイブリンもまた、同じだった。二人は互いに惹かれあい、結婚も間近だと誰しもが思ったわ。だけれど彼は――」  そこまで言うと、サーシャは口を閉ざした。彼女は手元に置かれた紅茶に視線を落とし、表面が揺れるそれを見つめた。周囲には沈黙が流れ、秒針を刻む音だけが聞こえる。  セシルは彼女がこれから口に出そうとしている内容がとても言いにくいことだと察した。息を潜め、口の中に溜まった唾液を飲み込む。  彼女はいったい何を言わんとしているのか。自分には想像もつかない。  自ら覚悟してグレディオラス邸に赴いたものの、緊張で胸が押し潰されそうだ。膝の上に置いている皹が起きている手を固く握り締める。それとほぼ同時に彼女は深く目を閉ざし、ふたたび口を開いた。閉じた瞼が小刻みに揺れる。彼女の閉じた瞼の下で、瞳は悲しみの色に染まっているに違いない。 「彼は独り身ではなく、愛を誓った貴婦人がすでにいたの。……いいえ、そればかりではないわ。彼の奥方は魔女だったのよ」  テーブルの上で固く組まれたサーシャの手が震えている。

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