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真実。

「知らなかったこととはいえ、イブリンは彼女の夫と一夜を過ごしてしまった。もちろん過ちは一度きりよ。でもその過ちで、ヴィンセントが生まれたの。イブリンは彼に迷惑を掛けるつもりはなかったわ。自分一人でヴィンセントを産むつもりだった。だけど彼もイブリンを愛していた。だからある日、三人で姿を消したの。そして――」  サーシャはそこまで言うとティーカップを傾け、ひと息に紅茶を喉の奥へ注ぎ込む。ふたたび口を開き、話を続けた。 「――そして、そのことを魔女は嗅ぎ当ててしまった。怒った彼女はイブリンと彼の間に出来た子、ヴィンセントを闇の中でしか生きられないヴァンパイアへと変え、イブリンが愛した彼は魔女がいる世界に連れ戻されたのよ」  サーシャは目を閉ざし、震える声で話し続ける。 「――たしかにね、すでに妻がいる男性と一夜を共にしたのはとても軽率な行為だし、好いた殿方ならもっと調べるべきだったわ。イブリンもね、彼が自分に相応しい相手かどうかを調べようとしなかったのもいけなかったわ。でも、もしかするとイブリンは彼に奥方がいることを薄々勘づいていたのかもしれないわね。――それにしたって生まれてくるヴィンセントには何の罪も無いわ。ヴァンパイアに変えてしまうなんて魔女の行為はあまりにも残酷よ」  ふたたび開いたその目にはセシルは写っていない。サーシャの顔は悲しみと苦痛に歪んでいる。  ――魔女。果たしてそんなお伽噺にでも出てくる存在が実際にいるのだろうか。しかしサーシャの表情は強張っていて、とてもではないが偽りを言っているようには見えない。それが真実だと彼女の表情が物語っていた。  けれども――。  ――姿を消したイブリンの夫。  ――人間のままのイブリン。  ――ヴァンパイアのカールトン卿。  これですべてに納得がいった。

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