「……教えていただいて、ありがとうございました」 　サーシャから明かされた情報があまりにも膨大で、セシルは目眩を起こした。それでも何とか椅子から立ち上がると、待たせている馬車に飛び乗った。 「いいこと？　セシル。早まったことをしてはダメよ。何か行動を起こす時は必ずイブリンとヴィンセントに相談なさい」 　彼女の手が、そっとセシルを叩く。思い詰めたセシルの姿を見た彼女は、セシルによくよく言い聞かせた。けれどもセシルは俯いたまま、それっきり何も言わなかった。 　――目眩がする。 　サーシャから聞かされたカールトン家の事情はあまりにも膨大で、そして非現実的なものだった。 　セシルはカールトン邸に戻る馬車の中で、深く目を閉ざす。 　イブリンが愛した男性は魔女の夫で、二人の間にヴィンセントが生まれた。彼は不義の子だったのだ。 　以前、イブリンは、『自己満足でヴィンセントが生まれた』とそう言っていた。それはつまり、サーシャの話が正しいことを裏付けている。 　既に奥方がいる相手に恋をしたイブリンの気持ちは痛いほどよく判る。 　だってセシルもまた、不釣り合いなカールトン卿に恋心を抱いているのだから……。 　たとえカールトン卿にその気がなくても、セシルは彼を愛しているし、この慕情は消せない。 　セシルの中で、イブリンと自分が重なる。 　イブリンの身に起きたことが他人事のようには思えない。 　何とかして魔女の呪いを解く方法はないだろうか。 　彼らを助けることはできないだろうか。