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偉大なる従弟。

 ガストンだ。彼は額に玉のような汗を浮かべ、肩で息をしている。切迫した空気が彼から漂う。だからヴィンセントは自分の正体を知っている従弟と顔を合わせてもまったく気分が楽にはならず、いっそうの喪失感に襲われた。 「セシルは戻っているかい?」  そして彼の問いがヴィンセントを追い詰めた。 「いや。ぼくも探しているところだ」  ガストンに尋ねられ、ヴィンセントはやはりセシルがこの屋敷にいないことを知った。  セシルがいない。  事実を実感するとヴィンセントの意識が遠くへ飛びそうになる。苦しみに耐えきれず、ぜぇぜぇと息を切らしながら、いっそう息苦しくなる胸を押さえた。 「大丈夫か? かなりふらついている。だいたい君は普段からの食事が悪い。病人の不必要になった血液ばかりを飲んでいるんだ。だからそうなる。もっと健全なご婦人からいただいてはどうなんだ。君ならご婦人の寝室に潜り込んでも彼女たちは喜んでその身を差し出すだろうに――」  今にも倒れそうになるヴィンセントを見かねたガストンはご丁寧にも小言を並べた。それはまるで小姑のようだとヴィンセントは思った。  彼の小言にはうんざりだ。ヴィンセントの眉間にはいっそうの深い皺が刻まれる。  気分は最悪だ。  たしかに、健全な血液は美味いだろう。空腹感も満たされるに違いない。しかし、食事の代わりに彼女たちは自分との一夜を求めるのも事実だ。自分の欲望を満たすためだけに誰かを抱くという行為そのものが、ヴィンセントにとって考えられないことだった。

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