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特別な存在。
いつからだろう。ヴィンセントはどんなに美しい女性を見ても何の感情も湧かなくなったのは――。
自分は身体だけではなく、心さえも化け物になり果てたということだろうか。どんな生き物だって持っている愛情さえも忘れて――。
――いや、そうではない。彼、セシルだけは違った。
セシルはいつだってヴィンセントの心の奥深くで眠っていた母性を引き出す。自分を誘惑するあの大きなルビーの目。華奢な身体を震わせ、怯えているその姿は保護欲をかき立てられる。包み込んで守ってやりたいとも思うし、うんと可愛がってやりたいとも思う。
ああ、そうだ。例えどんなに美しい女性でもセシルには敵わない。彼こそが、自分が求めている最愛の人だ。
今は自分の食事について言い争いをしている場合ではない。何よりも誰よりも姿を見せないセシルが心配だ。
「それより、セシルに何かあったのか?」
ヴィンセントが尋ねた。
ガストンは、今にも倒れ込んでしまいそうなヴィンセントをけっして安全とは言えないが、まだ命の危険が及ばない程度の屋敷内に押し込めると、続きを話し出した。
「今朝、イブリンと君の生い立ちを聞きに、セシルが一人で屋敷にやって来たそうなんだ。その時、たまたまぼくと父は外出していてね、母が彼と話をしたんだ。母は……その。君なら知っているだろう? 誰よりもずっと話し好きだって。――話を終えた後、セシルの思い詰めた様子があまりにも気になった母は心配になってぼくをここへ寄越したんだが……」
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