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恐怖。
今、こうしている間にもセシルが危険に晒されようとしている可能性がある。そう考えると全身の毛が逆立つ。震えが止まらない。
彼のことをこれほどまで大切に想うようになったのは、いったいいつからだろう。はじめはただ、孤児たちに融資をするような気分だった。
彼の両親からセシルを同族にしてほしいと乞われた時、どんなに驚いたことか。政府にのみ知られている自分の正体を彼女たちは知っていたのだ。それだけ自分の子供が可愛くて、助かる伝手を必死に探したに違いない。そんなに大切な我が子を、悪魔 に委ねる彼らの気分はいったいどんなふうだっただろう。
姿形はどうであれ、愛しい我が子には生きてほしいと、ただひたすら願って――。
だからヴィンセントはセシルと会おうとはせず、薬と称して自分の血液が入った液体を手紙に添えて処方していた。
もちろん、ヴィンセントはセシルを食料として見たことなんて一度たりともない。
ヴァンパイアの自分は一生彼の前に姿を現すことなく、陰ながら彼を援助する。それこそがセシルにとって最善の策だと思えたからだ。
けれども実際は、けっして最善の策なんかではなかった。ハーキュリーズ家での彼の仕打ちはあまりにも残酷だったからだ。
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