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愛らしいセシル。

 本来、ヴァンパイアになりかけている頃でも滅多なことでは身体を壊すことがない。  ――にもかかわらず、セシルは高熱に犯され、肺炎を起こしかけていた。  あのビオラとかいう継母にはうんざりだ。いくら義理であっても息子を保護する立場の彼女は扱き使うばかりで気遣う様子もない。彼の両親のたったひとつの願いさえも叶えてやらなかった。  ヴィンセントがセシルを養護しようと決意したのは、イブリンが出不精の自分を社交パーティーに連れ出した時だ。  トステフィール伯の裏庭で成長したセシルを見た時、今にも倒れてしまいそうな頼りない姿がとてもではないが見ていられなかった。  それに――ああ、そうだ。こんな化け物にさえも微笑み返してくれる彼の笑顔に何もかもを許される気がした。  ――健気で愛らしいセシル。自慰さえも知らない無垢な彼。その彼に快楽を教えてからだ。  彼はヴィンセントに愁いを帯びた視線を寄越すようになった。その儚げで艶のある表情がなんとも言えず、彼に触れれば触れる分、色香が増していく……。彼の手に掛かればこんなにも簡単に魅了されえてしまう。  ヴィンセントはそんなセシルを誰にも渡したくないと思ったし、純粋で健気な彼を抱くのは自分だとそう意識するようになった。  ヴィンセントがその感情を知ったのは、セシルが攫われたあの時だ。無惨にも引き裂かれた洋服からしなやかな肢体が彼らの前に披露され、ごろつきたちの餌食になりかけたあの時――恐怖に怯え、身体を震わせている彼を目の当たりにしたヴィンセントは怒りが頂点に達した。  あの時のような苦しみはもう十分だ。セシルには陽だまりの笑顔がよく似合う。彼の微笑みはヴィンセントのすさんだ心をあたためる。彼の存在がどんなに自分の支えになったことか。

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