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強情な従兄。
かつての自分のように、もう指を咥えて父親の帰りを待つように、セシルを待つことなんてできない。
ヴィンセントは足下をふらつかせながら、今となってはセシルの寝室へ移動すると、身に付けていたローブを抜き取る。クローゼットの中から分厚いジュストコールと首までを覆うチュニックを取り出し、着込んでいく。
「ヴィンセント、君、大丈夫か?」
足下がおぼつかない。ヴィンセントはいよいよ倒れそうだ。その彼の様子を見かねたガストンは眉間に皺を寄せた。ヴィンセントは鉛のように重い片手で眉間を押さえる。大丈夫だと小さく頷いた。
どこからどう見てもけっして大丈夫とは言えないその様子に、しかしガストンは首を振るだけにしたようだ。口を閉じた。
「それでどうするつもりだ?」
「……セシルの、血液の匂いを追う」
セシルの血液の香りはいつだってヴィンセントを誘惑する。彼の香りを嗅ぐと、すべてが欲しいと身体中のすべてが反応する。それでも恐ろしい誘惑に勝てたのは、セシルを大切にしたいという一途な想いからだ。
たとえどんなに離れていようとも、彼の香りはずっと自分の身体に染みついている。だからヴィンセントが望めば彼を捜すことなんて造作もない。
しかし今ばかりは勝手が違う。身体が重い。今にも倒れそうだ。これが闇の世界ならよかったのものの、しかし今は強い日差しに包まれている。本当は自分一人でセシルを捜しに行きたかったが、この状況ではどうにもできそうにない。
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