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彼が人間に戻る方法は?

 セシルは胸に拳を作り、深く呼吸をして息を整えた。その後、ゆっくりと唇を動かしていく……。 「たしかに、貴女がおっしゃるとおり、カールトン卿はヴァンパイアでした。ですが彼は魔女に姿を変えられただけで、本当はとてもお優しい方なんです。どうかお願いです、魔女の呪いを解く方法をご存知なら教えて下さい」  声が震えてしまう。彼女の持つ何かが、セシルを不安にさせているのだ。それは悪を憎む彼女の心だろうか、判らない。  セシルは跪き、彼女にカールトン卿が人間に戻る方法を乞うた。  静寂が広がる。  二人の間に生まれた沈黙は長かった。どのくらい沈黙が続いただろう。それを破ったのは、彼女の方だ。けれども彼女の言葉は、セシルの予測を遙かに超えたものだった。 「――そう、貴方は知ったのね。イブリンとヴィンセント。そしてわたしたちのことを……」  彼女の深いため息の後に飛び出たのは冷たい、凍るような声だった。その口ぶりはまるで、カールトン家のすべてを知っているようではないか。ティモシーの言葉に、セシルの身体が凍りつく。心臓が大きく跳ねた。 「それは……どういう?」  伏せていた顔を上げれば、紅を引いた赤い唇は醜く歪んでいた。  彼女の表情を見た瞬間、ひとつの考えが浮かび上がる。 「……まさか」 (彼女がヴィンセントに呪いをかけた魔女)  セシルの頭に思いもしなかったひとつの考えが過ぎった。口内から唾液が消え去る。喉はからからに渇き、ひりつく。  セシルは、ただただ目の前で冷淡にうすら笑いを浮かべる彼女を見つめた。

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