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魔女の正体。
「ええ、お察しのとおり。最愛の夫に裏切られ、人間の女に寝取られた。わたしこそがカールトン卿に呪いを掛けた魔女よ」
「……そんな」
いつの間にか、セシルと彼女との距離はずっと縮まっていた。細い指が伸び、セシルの顎を拾い上げる。彼女の手は発せられる言葉と同じくらい、冷たい。
――寒い。身も心も凍えるようだ。
「でも貴方は可哀相。彼に伴侶として選ばれたばかりに、彼と一生を添い遂げなければならないのだから。だからチャンスを与えたくってね、わたし自ら貴方の前に赴いたの。貴方だって、彼らの巻き添えなんてうんざりでしょう? カールトン卿のとばっちりを受けて、彼と永遠を生きなければならないなんて――」
彼女の言葉に、ふたたびセシルの心臓が大きく震えた。セシルは耳を疑った。伴侶に選ばれた自分は一生を添い遂げる。彼女はそう言った。
「それは、どういう?」
「そういう呪いをかけたのよ。わたしの夫と同じ過ちを繰り返さないように、婚姻を決めた相手と添い遂げるという呪いを……彼の年齢、おかしいと思わなかった? 主人が愛人と逃げた後にわたしに見つかり、連れ戻されたとしたら、当時十六歳のカールトン卿はあまりにも若すぎる。だから彼が二十七という結婚の適齢期を迎えた頃、時を呪いで止めたの。一生を誓い合った人と添い遂げられるようにって、ね」
(……そんな)
セシルは深く目をつむった。それは自分がとことんまで愚かな存在だと思い知った瞬間だった。
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