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自分さえ。

(僕は……)  セシルは目を閉ざし、鞘から鋭い切っ先を引き抜いた。からからになった喉を鳴らし、息を吸い込む。  その時だ。 「だめだ、ティモシー、彼に短剣を渡すな!」  張りのある太いその声が、礼拝堂の入口から聞こえた。どこかカールトン卿に似ている彼の声が彼女を制する。しかし事は既に遅い。セシルは躊躇いもなく、切っ先を自分の胸に突き刺した。同時に赤い血液がそこらじゅうに飛び散り、地面を濡らす。短剣を貫いたそこからは火傷しそうなほどの熱がセシルを襲った。  セシルは呻き声を上げながら、それでもより深く自分の胸に刃が突き刺さるよう、押し込んだ。肉をえぐる生々しい音が耳に響く。  愛していない自分に一生を捧げることになった可哀相なカールトン卿。  自分さえいなくなれば、彼はいくらだってこれから好きな女性と添い遂げることができる。  カールトン卿にもイブリンにも、サーシャやガストンにしたって、彼らには家族がある。大好きな彼らをセシルの勝手で消し去れる筈がない。殺せるとしたら、それは誰でもなく、愛する男性の自由すらも奪った、醜い自分自身だ。  幸いにも、セシルはカールトン卿の許婚だ。彼らとは家族ということになる。ともすれば、カールトン家の一員となった自分が死を迎えれば、彼らの呪いは解かれる。 (これでいい。これで……ヴィンセントの役に立てた……)  セシルの身体が傾き、地面に崩れ落ちる。けれども身を焼かれるような熱のおかげで倒れた時の痛みは感じない。赤い唇から飛び出すのは苦痛を訴える醜い呻き声ばかりだ。

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