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もし、あの時。
イブリンが言うように、逃げずに対処すればよかった。自分がヴァンパイアだと知られたあの時、それでも愛していると告げればよかったのだ。そうしたら、彼はもしかすると自ら命を絶つことなく、今も自分の隣で微笑んでくれたかもしれない。しかし、彼は目を覚まさない。ヴィンセントが好きだった、あの恥じらうような笑みはもう二度と見ることができない。
「セシル……」
薄い唇からは呻きとも悲鳴ともとれる悲痛な叫び声が放たれた。その声は礼拝堂中に響き渡り、振動する。
サファイアの目から絶えず流れる絶望の涙が彼の頬を伝い続けた。
「わ、わたしは悪くないわ!! だって貴方たちのせいで、わたしは一族の笑いものになったのよ? この愚かな夫がわたしを裏切り、人間の女と寝たから! だからわたしはセシルに、貴方たち一族の誰かの命と引き替えに呪いを解くことを約束したのよ、そうしたら、この子は――」
ティモシーは黄色い声で怒鳴り散らした。しかしその声や言葉は、考えもしなかった結末に彼女自身が自分を責めているようだと、ヴィンセントは感じた。
「セシルはわたしとは違うわ。自分を差し出すことができる優しい子よ。貴女はわたしたちと同じように扱ってはいけなかったのよ」
イブリンは首を振る。彼女の声は思いのほか小さく、掠れている。はしばみ色の目には落胆の色が見えていた。
「セシル、なぜ君はぼくを殺さなかった。君をヴァンパイアに変えたのはこのぼくだ。君が命を投げ出す必要はなかったんだ!」
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