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いっそのこと。

 いっそのこと自分を憎み、殺してくれた方がよかった。そうすれば、容姿も性格も可愛らしいセシルは誰かに引き取られ、ずっと太陽の光の中で何不自由なく過ごせただろう。すべては自分が招いた愚かな行為が問題だったのだ。セシルに拒絶されるのを恐れ、手放そうとしたのがいけなかった。彼を想うのなら、もっとそれ以上に大切に扱ってやらねばならなかったのに……。 「セシル……ぼくは……」  ヴィンセントは動かなくなった彼を抱きしめた。 「ああ、ヴィン、セシル。許してちょうだい。わたしが愚かだったのよ、感情に身を任せ、ダイモンを愛してしまった愚かなわたしがいけなかった。罰せられるべきはわたしの方だったのに! どうか許して……」  イブリンはわあっと泣き崩れた。はしばみ色のその目から涙が溢れ、頬を伝う。床に跪き、項垂れているイブリンにヴィンセントは首を振った。 「いいえ、母上。これは傲慢なぼくが招いた結果です」  ヴィンセントはセシルの頬に伝う涙の痕を親指でなぞった。その手つきはとても優しい。そうして彼はセシルを横抱きにすると、危うく転げ落ちそうになるその足で立ち上がった。 「正直、父上がしたことは今も許せません」  ヴィンセントはダイモンと向き合う。彼を見つめるサファイアの目には悲しみが宿っていた。 「貴方はティモシーの夫であるにもかかわらず、母上を裏切り、ぼくを生んだ。罪滅ぼしのつもりで政府に莫大な金を明け渡し、ぼくに爵位では最高位の公爵を授けましたが、実際はまったく裕福ではなかった。なぜぼくを――母を置いて魔女の元に戻ってしまわれたのか。理不尽な怒りさえもおぼえていました。ですが今なら、母上を愛してしまった貴方のお気持ちも、貴方が魔女の元に戻られた理由も、少し判るような気がします」

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