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長い夜が明けて。
怯えながらも顔を上げれば、カールトン卿は苦痛とは無縁の微笑を浮かべている。その微笑みはとても穏やかで優しいものだった。
(ああ、ヴィンセントはやっぱり素敵だ)
カールトン卿を愛しているセシルはどうしたって美しい彼に見惚れてしまう。
「どうやらぼくと母上――それに父上は君のおかげで許されたらしい」
「許された?」
セシルが尋ねると、彼はナイトテーブルの引き出しから手鏡を取り出し、セシルの姿を写した。鏡に写ったその姿を見た途端、セシルは息を飲んだ。それというのも、血のような赤の目と髪は跡形もなく消え去り、五歳のあの頃にあった、ブロンドとエメラルドの目をしていた。セシルの姿が以前とは違っていたからだ。
「これは……」
魔女の呪い。カールトン卿はそう言った。
――ああ、そうだ。自分はサーシャの口からイブリンの過去とカールトン卿の生い立ちを知った。そしてティモシーと会い、呪いの解き方を尋ねた結果、あろうことか彼女こそがイブリンやカールトン卿に呪いをかけた魔女だと判った。だからセシルは自分の命と引き替えに呪いを解いてもらえるよう、取引をしたのだ。
なぜ今の今まで自分はそのことを忘れていたのだろう。
カールトン卿は、『許された』とそう言った。それは呪いが解けたということだろう。だったら、彼が太陽の光に浴びても平気なのも頷ける。魔女はセシルの命を助け、無条件で呪いを解いてくれたのだ。存外、魔女も思いやりに溢れた優しい女性だったのだとセシルは思った。
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