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解けた呪い。その先にあるのは――。
「じゃあ、本当に呪いが解けたんですね」
ヴァンパイアに姿を変えられ、一度決めた伴侶と永遠を生きるという、カールトン卿にかけられた二重の呪いも何もかもが――。
「……ああ。母上と父上は過去に失われた大切な時間を取り戻すため、ちょっとした旅に出ている」
セシルが念を押して尋ねると、彼は頷いてみせた。
愛情深いイブリンがこの世でただ一人を愛した男性――その人はおそらく、セシル自らが胸を貫き、命を絶つあの時に出会った彼だろう。自分を抱きかかえてくれた、カールトン卿に似た彼。あの男性こそがイブリンの最愛の人であり、カールトン卿の父親だ。
「……よかった」
イブリンやカールトン卿の父親、それにカールトン卿。彼らがすべてを許されたのなら、こんなに嬉しいことはない。
ほっと胸を撫で下ろすセシルに、けれどもカールトン卿は唇を引き結んだ。彼の長い人差し指がセシルの顎を掬い取る。そして彼は薄い唇を開いた。
「しかしね、ぼくはちっとも嬉しくはないよ。君は自ら命を絶つため、自分を傷つけた。君はそんなにヴァンパイアの姿が受け入れ難かったのか? 化け物にしたぼくが憎いのか?」
「ちがっ!!」
尋ねられ、セシルは直ぐさま首を振った。
カールトン卿を憎めたらどんなにいいだろう。そうすれば、こんなに胸も痛まず、苦しい思いもしないだろう。
カールトン卿は優しすぎた。彼はセシルがどんな粗相をしても責めず、辛抱強く鈍くさい自分と向き合ってくれた。
――それに幼い頃、高熱で生死を彷徨っていた自分の命まで助けてくれた恩人でもあるのだ。カールトン卿を憎めるはずがない。
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