「――嘘だ。違う。僕は、本当は片時も貴方から離れたくないと思っているし、貴方の呪いが解けて悲しいとも思っています。だって貴方が望めば僕は簡単に切り捨てられる。呪いで縛られることもなくなった。そして貴方は自分に見合う美しい女性と一緒になるんだ。その後、貴方を愛している僕はどうしたらいいの？　ねぇ、どうして僕じゃないの？　僕はこんなに貴方を愛しているのに！」 　セシルはわあっと大声で泣いた。一度胸に秘めた想いを吐き出してしまえば止まらない。 「どうして僕は貴方と同じ性別なの？　どうして僕を側に置いたの？　貴方に出逢わなければ、僕は貴方というぬくもりを知らず、ずっと孤独のままで生きていられたのに……。恋を知らず、ビオラやロゼッタに扱き使われ続けて父や母と同じように永遠の眠りにつけたのに！！」 　カールトン卿は過ちを犯してしまった。キスも、その先の行為も、自分に教えるべきではなかったのだ。 　こんなに苦しい思いをするなら、いっそのことキスも触れられた手のぬくもりも知らなければよかった。 　セシルはカールトン卿に縋り、泣き崩れる。やがてやってくる拒絶という苦しみを実感して――。 　それなのに、彼はまた、セシルの気持ちとは裏腹な態度を示した。彼の大きな手が悲しみで丸まったセシルの背中を優しく撫でた。 「ああ、セシル。嘘だろう？　ぼくは君に嫌われていると思っていた。なにせぼくは君をヴァンパイアという化け物にした挙げ句、伴侶として一生を添い遂げなければならない契約を交わした。いくら君の命を助けるためとはいえ、同性の――しかもヴァンパイアにしたぼくを、君は憎んでいるものとばかり思っていたんだ」