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醜い心。

 嗚咽の合間を縫って聞こえる彼の言葉に、セシルは首が引き千切れんばかりに大きく横に振った。 「違う! 違います!! だって僕は貴方に助けられた。幼い頃だけじゃない。両親が亡くなってからもずっと。ビオラやロゼッタにいじめられて苦しい時も、影で支えてくれたのはいつだって貴方でした。だからっ!」 (どうしてヴィンセントはこんなにも優しいの?)  セシルは穢らわしい胸の内を晒したというのに、彼は文句ひとつも言わず、こうして抱き締めてくれる。  けれど優しく包み込むその行為すら、今のセシルには余計だった。  彼はどんなに自分の醜い部分をさらけ出しても、けっして突き放したりしない。 「ぼくはね、セシル。こう思っているんだ。いくら君のご両親に頼まれたからといって、君の命を助けるべきではなかったと――。そうすれば化け物になることもなかったし、君は今頃、天国のご両親と同じ場所にいるはずだったのに、と……」 「違うっ! 僕は!!」  丸まった背中を撫でる彼の手が止まる。セシルは涙や鼻水すらも垂れ流したその顔を上げ、カールトン卿を見た。 「貴方が好きです。もうこれ以上、優しくしないで……判ったでしょう? 僕は、貴方に掛けられた呪いで縛り付けられることを願っている。こんなにも醜い感情を持っている。だからもう終わりにして。お願いです、どうか心まで醜い僕を罵って、迷惑だって言って。僕を振って……」 (お願いだから!!)  むせび泣くセシルに、しかしカールトン卿はいっそうの強い力で抱き締めた。

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