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 あまりの恥ずかしさに何も言えず、セシルはただひたすらにヴィンセントが作ってくれた朝食を口に運び続けた。 「では従兄殿、また来ます」 「もう来なくていい」  ガストンの言葉に、彼は直ぐさま拒否した。 「あの、お見送りを!」 「いらないよ、それよりも次に会う時は、首筋にあるそれがずっと増えていないことを願っているよ。隠すのが大変そうだ」  セシルが申し出ると、ガストンはひらひらと手を振り、背を向けて去っていく。  ガストンはヴィンセントにとって大切な家族だ。彼にとって大切な存在なら、セシルにとってもそうである。だから急いで腰を上げようと試みるものの、しかし彼の腕がセシルの腰に巻きついたまま、解こうとしない。  その間にも、ガストンの姿が見えなくなっていく……。 「ヴィンセント……あの、ガストン様のお見送りを……」 「必要ない。それよりも君に今必要なのはベッドだ。なんたって、君はこれからたっぷりぼくの愛を受け取ってもらうんだから」  セシルの手元にあるリゾットの皿がすっかり空になっていたのを見たヴィンセントの口元がほころぶ。  セシルは芯が残っているそれを食べてくれた。そう思うと、彼の中でセシルに対する慕情がまた一段と増す。一刻も早くセシルが欲しくなったヴィンセントは、膝の上に乗っている華奢な身体を横抱きにした。 「うわわっ」  これに慌てたのはセシルだ。  何の予告もなく宙に浮いたその身体を、戸棚の硝子が写し出した。

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