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ガストンは、従兄に何を言っても無駄だと悟ったらしい。やれやれと大袈裟にため息をつき、懐から手紙を取り出した。
「君たちに手紙だ」
ガストンから無言で手紙を受け取ったヴィンセントは、静かに目を通した。
しばしの沈黙が周囲を包み込む。
「……ヴィンセント、なんて書いてあるんですか?」
身体に熱が宿っているおかげで焦点が合わない。それでも誰からの手紙か気になったセシルはヴィンセントに尋ねると、彼はにっこり微笑んだ。
これもまた珍しいとガストンは思った。なにせこの従兄ときたら、父親の件があってからというもの、他人に気安く笑顔を見せるほど心を許したことがなかったからだ。
ガストンは、セシルと共にこの世を去ろうとしたヴィンセントがどれだけセシルを想っているのかを十分理解していたものの、それでもこうしてあらためて従兄を見ていると、セシルへの想いの深さを思い知る。
「母上は父上と一緒に父上の実家へ帰るそうだ。セシルによろしくと書いてある」
「よかった……イブリン」
イブリンはセシルにとって、実母亡き後、第二の母親のような存在だった。その人の想いが今やっと成就されたのだ。好きな男性と添い遂げられるそれ以上の幸せは他にない。
セシルの赤い唇に薔薇色の笑みが浮かぶ。
そんな二人の会話を聞いていると、ガストンはどうもこの部屋に居づらさを感じた。目に付いたテーブルの上のものを見やる。そこにはまだ手を付けていない、野菜のリゾットが置いてあった。作りたてなのか、まだ湯気が立ち上っている。
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