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過酷な日々。

 ただでさえ、食事をまともに摂らせて貰えず、しかもセシルは生まれつき身体が弱い。身長も栄養が行き届いていないために百六十五センチと年頃の男子よりもずっと低く、身体つきだって骨ばかりが目立っている。それなのに、彼女は一食分の食事を抜くよう、さらなる罰を与えるのだ。  セシルの仕事は食事の準備からはじまり、皿洗いや掃除に洗濯。庭の手入れとビオラからの命令は留まることを知らない。おかげで少し動いただけでも息切れを起こし、咳が止まらなくなるのはいつものことだった。  セシルの身体はもう、限界を迎えている。それでも彼女たちは容赦なくセシルを使用人の如く扱っていた。けれども今日はまだ静かな方だ。――というのも、いつもなら、ビオラと一緒に自分を(あざけ)るのに大忙しなロゼッタはいったいどうしたことか。朝食以来、姿を見せなかった。 「――――」  これはどういうことだろう。セシルは一抹の不安を覚えながらも足下に散らばった破片を片付ける。すると勝手口のドアを叩く人物によって呼び止められた。  壁掛け時計を見れば、時刻は午前十時を回っている。勝手口のドアを叩く人物が誰なのかはもう知っていた。だからセシルの足取りは思いのほか軽い。 「こんにちは。今日もヴィンセントからお届け物だよ」  勝手口のドアを開けると、そこには年の頃ならセシルと同じくらいだろうか。青色の肩掛けバックに薄茶色のコートを羽織った青年が立っていた。  彼はヴィンセントから使いを頼まれているらしく、毎朝こうして薬と手紙を届けてくれるのだ。

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