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赤薔薇の封蝋が施された一通の手紙。

「ありがとうございます。わざわざいつもすみません。毎朝大変でしょう?」  セシルは差し出された飲み薬が入った小瓶と赤い薔薇の封蝋が施された立派な封筒を受け取り、礼を言った。 「いやいや、あの人にはたっぷり報酬をもらっているからね心配なんていらないよ。それにしてもあんた大変だよな。唯一の嫡男は病弱で寝たきりらしいし、継母はかなりの悪女らしいし。こんな血も涙もない屋敷の人間に扱き使われてさ」  世間ではビオラとロゼッタの評判は非情に悪い。彼女は彼女たちたちなりに、『両親を亡くした病弱な前妻の子供を看病する優しい貴婦人』を演じているらしいが、本性はどうやら筒抜けのようだ。知らないのは本人たちばかりだった。  赤い髪に赤い目をしたセシルの容姿は人とは違う。けれど青年は特に気にする様子もなく、こうして毎日他愛のない話をしてくれるのだった。 「っていうか、あんた。いつも以上に顔色が悪いけど大丈夫か? ちゃんと休みを貰っているか?」 「あ、はい。もちろんです。ご心配ありがとうございます」  青年はセシルを使用人だと思っているらしく、労りの言葉を掛けてくれる。それもそうだろう。(あかぎれ)のある手の持ち主がこの屋敷を引き継ぐ正式な後継者だとは誰も思うはずがない。  セシルはどう言えばいいのか判らず苦笑を漏らすと、青年はそれを肯定と受け取ったらしい。鼻の下を掻いた。 「ところで、ここの主人から何か預かっているか? 手紙があったらヴィンセントに渡しておくけど?」

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