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手紙を書くということ。

「いえ、今日はありません」  セシルは静かに首を振った。  ……本当は、ヴィンセントに聞きたいことや聞いてほしいことはたくさんある。けれどいざ手紙に書き記そうとすると何から書けばいいのか判らない。  それに、ビオラからは自分用の羊皮紙や羽ペンを持たせて貰ってない。手紙を書くとなると、ビオラやロゼッタの目を盗み、羊皮紙を手に入れることからはじめなければならない。ビオラたちから言い渡される過酷な労働に追われたセシルにはそんな体力は殆ど残っていなかった。 「そっか。じゃあ、また明日な」 「あのっ!」  ヴィンセントはどんな人だろうか。お医者様なのだから、やはりとても律儀で優しい人物だろう。聞きそびれている質問を青年に尋ねようと口を開くものの、ふと思い直し、口を閉ざした。 「……いえ、なんでもありません。薬と手紙をありがとうございました」  ヴィンセントのことは知らない方がいい。知ってしまえば、彼が自分を受け入れてくれるかもしれないと期待してしまう。  ヴィンセントに会いたいと、そう願ってしまう。しかし自分はこんな(なり)をしている。嫌われてしまうのはもう判りきったことだ。  セシルはヴィンセントに使いを頼まれた青年に何でもないと首を振り、頭を下げた。    やがて青年の背中が見えなくなると、セシルは勝手口を閉めた。

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