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婦人たちの愉しみ。
重い扉を開けて広間に入った途端、セシルは目を眩ませた。
広間には廊下にあったものとは比べようもないくらいの巨大なシャンデリアが天井に飾られていたからだ。まるで昼間の太陽を直接見ているかのようだ。装飾されている宝石が輝くその粒子のひとつひとつがセシルの目に飛び込んできた。
そしてやはりともいうべきか、会場にはむせ返るような人の熱気と自己主張する香水たちの様々な匂いが充満していた。
実のところ、セシルはこういった強い香水の匂いも好きではなかった。
しかし、セシルを攻撃するのは何も貴婦人から香ってくる香水の匂いだけではない。扇子で覆い隠している彼女たちの紅を引いた唇から放たれる陰口だ。
「ねぇ、あの子の髪と目を見てよ。まるで血のように真っ赤じゃない。気味が悪いわ」
「母親といい、父親のハーキュリーズ伯といい、亡くなったのはもしかするとあの子が血を啜ったからじゃなくて?」
「まあ、怖い」
貴婦人たちからの心ない言葉がセシルを襲う。
たしかに、セシルの容姿は常人とは違う。彼の髪と目はまるで人の生き血を啜ったかのような赤い色をしていた。けれどもこの陰口はあまりにも酷い。セシルだって自らすすんでこんなところに来たいとは思わない。できることならハーキュリーズ家で留守番をしたい。
それなのに、ビオラはそれを許さなかった。彼女たちがセシルを連れ歩く理由はただひとつ。自分たちの評判を上げるためだ。
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