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魅惑。
(……なんて綺麗なんだろう)
セシルは男性のその容姿に見惚れた。
「……君は美しい」
嘘ではない。まるでセシルに言い聞かせるようにもう一度、彼はセシルの容姿を褒める。すると長い指がほっそりとした貧相な顎を掬い上げた。同時に自分の腰にあった力強い腕は後頭部に移動し、薄い唇がゆっくり迫ってくる。
セシルは静かに目を閉ざし、やがて彼から与えられる口づけを待った。
男性の吐息がセシルの唇に触れる。その事実を疑いもしなかったセシルは、逸る気持ちを押し隠し、彼の柔らかな感触をひたすら待ち望む。
けれども待ちに待ったその瞬間は訪れなかった。
「ちょっと、カールトン公はどこにいるの? せっかくのロゼッタの晴れ舞台だというのに、とんだくたびれもうけだったわ! セシル、セシルはどこにいるの? 帰るわよ?」
それは突然だった。耳を劈くほどのけたたましい金切り声がロマンティックなこの雰囲気を打ち破った。その瞬間、セシルは、はっと我に返る。
そして自分がこの紳士と何をしようとしていたのかをはっきりと自覚した時、身の置き所のない羞恥が身体中を駆け回った。
セシルは慌てて分厚い胸板を押し、男性から離れた。
(僕はいったい何をしようとしていたの?)
あろうことか、同性とキスをしようとしていただなんて……。
ああ、けれども彼はとてもハンサムだ。流れるようなその双眸に、吸い込まれそうなサファイアの瞳。たとえ同性であっても彼の美貌に魅了されない者はいないだろう。
しかし、自分は違う。人の血のように赤い髪と目。おまけに青白い肌。幽霊のような醜い容姿をしている。
美しい彼とキスをしようとしていたなんて身の程知らずもいいところだ。
彼はなぜ、自分のようなおぞましい容姿をした相手と口づけしようとしたのか。――いや、この紳士はおそらく、場の雰囲気に流されただけに違いない。
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