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訪問者。

 ビオラは一向に仕事が捗らないセシルに癇癪(かんしゃく)を起こすものの、二人にとって今夜この屋敷にやって来る客人は余程大切らしい。彼女は怒鳴るのもそこそこに、納屋に引っ込んでおくよう命じた。  おかげでセシルは、今朝届いたばかりのヴィンセントからの手紙を取り上げられずに済んだし、簡素ではあるがベッドの上で横になることを許された。それでも頭痛は今朝よりもずっと酷くなっている。身体中のあちこちが痛みを訴えた。  まるで自分は今、極寒の地にでもいるようだ。恐ろしい寒さがセシルを襲う。  身体の震えが止まらない。  セシルは噛みしめた歯をガチガチと鳴らし、唯一ビオラから与えられた薄手のブランケットにくるまった。それから今ではすっかり皺くちゃになってしまったヴィンセントからの手紙を強く抱き締める。  板張りの壁の隙間から冷たい風が舞い込む。高熱にうなされているセシルに向けて容赦なく吹き付けてきた。  (……寒い)  熱に浮かされ分散する意識の中で、遠くの方から近づいて来る馬の蹄の音がする。  どうやら客人がやって来たようだ。  うっすらと蹄の音を聞いていると、何やら言い争う二人の声が聞こえてきた。一人の甲高い声質はビオラだ。それからもう一人は誰だろう。聞き慣れない男性のものだった。  そうかと思えば突然、部屋とも呼べないこの納屋の木戸が開いた。いっそうの冷たい夜気が納屋全体を覆う。

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