32 / 241

思わぬ再会。

 今夜はいつも以上にずっと寒く感じる。  セシルは恐ろしく冷え込んだ夜気から身を守るため、薄手のブランケットの中でさらに身体を縮めた。震えながら何事かと勢いよく開いた木戸へ顔を向けると、なんとそこには昨夜見たハンサムな紳士がいるではないか。セシルは飛び込んできたその光景に目を疑った。  もう二度と会えないと思っていた彼が今、自分の目の前にいる。いったい誰がこの光景を想像できただろう。今夜の客人がまさか彼だと思いもしなかったセシルは内心驚いた。 「あなた……は?」  尋ねたそれは、果たして声になっていただろうか。吐く息と同じくらいずっと小さく、身体と同じように小刻みに震えていた。 「どうしてもまた君に会いたくてね、是非とも食事を一緒にと今夜君の屋敷にお邪魔したんだ」  男性は昨夜と同じ優しい眼差しでセシルを見下ろしている。 「あ、あの。カールトン卿。実はこの子は身体が弱くて……。ですからもしかすると貴方様にお風邪を移してしまうかもしれませんわ」  ――カールトン卿。ビオラは彼をそう呼んだ。  どうやら彼こそがビオラが常日頃から愛娘のロゼッタの結婚相手にと狙っていたカールトン卿らしい。  伏せっているセシルに親しみを込めて話している姿が気に入らないのか、ビオラの声音はいつも以上に高い。頭痛を堪えるセシルの頭にずっと大きく響いた。  ビオラは何とかしてカールトン卿を説得しようとしていた。彼をセシルから引き離そうと試みる。けれども彼はセシルの側から動こうとはしなかった。 「構わない」  そう言った彼の声音はとても素っ気ない。

ともだちにシェアしよう!