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優しい手。
「で、ですがカールトン卿……」
慌てふためくビオラの後ろではロゼッタが狼狽えている。
その傍らで、カールトン卿は薄手の掛け布団にくるまり、震えるセシルが異様に感じたのだろう。セシルの顔をまじまじと覗き込んだ。
「セシル? どこか具合が悪いのか?」
彼は手を伸ばし、セシルの額に触れた。
差し伸べられた彼の手はひんやりとしていて心地好い。
セシルは皹 を起こしてる手を伸ばし、彼の骨張った大きな手の甲に触れた。うっとりと目を閉ざし、差し出されたその手を求める。
「なんてことだ。すごい熱じゃないか! ただでさえ身体が弱いのにこんな吹きさらしの納屋で寝るなんてどうかしている。毎日薬を飲んでいるはずなのになぜこうもっ! くそっ。もういい、君たちの元に置いていたのがそもそもの間違いだったんだ。セシル、今すぐぼくの屋敷においで」
(毎日の薬? 君たちの元に置く?)
なぜ、彼は自分が病弱で、薬を飲んでいることを知っているのだろう。
朦朧とする意識の中、カールトン卿は自身を罵り、悔いている。彼が発言する言葉ひとつひとつにセシルは疑問をおぼえるばかりだ。
「カールトン卿!!」
ついにビオラは癇癪を起こした。彼女の足の爪先から頭のてっぺんまで溜め込んだ尖った声が周囲に響いた。
しかしカールトン卿は冷静だった。
「今からこの子をぼくの屋敷に連れて行く」
彼は静かに口を開いた。
果たして彼は何と言ったのだろうか。
「……あの……」
自分はこれからどうなってしまうのだろう。
胸が息苦しい。セシルはろくに声も出せない状態だった。
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