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紳士。
次にセシルが目を開けたのは、ビオラとロゼッタの声がすっかり聞こえなくなってからのことだった。
揺れているのは自分なのか。それともこの空間なのか。
重い瞼を開けるとそこには窓があり、外の景色が流れていた。
どうやら自分は今、馬車の中にいるらしい。
車輪が小石を践むその度に大きな音がしてセシルの身体が揺らされる。
セシルは揺れ動くその中で、胃のむかつきに見舞われた。こればかりはどうにもすることができず、ただ窓に流れる景色を眺めるしかない。
「――――」
自分はいったいどこに行くのだろう。
疑問を抱くその間も景色は流れ続け、馬車は一向に停車する気配がない。
小刻みに身体を揺らされ、胃のむかつきは酷くなる一方だ。
セシルはあまりの気持ち悪さに耐えきれなくなり、とうとう嘔吐きはじめた。
「気分が悪いのか?」
尋ねられてはっとしたのは、自分はなぜか昨夜ダンスを踊った男性と同じ馬車に乗っているということだ。
彼の力強い腕が、セシルが転倒しないよう、後頭部に回っている。
そして男性の膝の上で横抱きにされていた。おかげで込み上げてくる吐き気をどうにか抑え込まなければならない。なにせここでもどしてしまうと、この男性の上等なジュストコールが汚れてしまう。
セシルは口元に手をやり、込み上げてくる胃のむかつきを必死に抑えた。
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