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予想外の反応。
だから固く目を閉ざし、自分の存在が今すぐ消え去ることを願う。
彼から見ると自分はさぞかし滑稽に見えるだろう。そう思ったセシルだが、けれども彼からは思いがけない言葉を掛けられた。
「まったく、君はいじらしいな。そういう慈悲深いところも君の魅力なんだろうね」
「えっ?」
セシルは閉ざした目を開け、カールトン卿を見上げた。彼は微笑を浮かべるばかりで、サファイアの目に同情や軽蔑の色はない。
「あの……」
大きな手が困惑するセシルの両肩をそっと包み込む。彼の腕の力によって、セシルの身体が倒された。カールトン卿は横になるよう、暗に促したのだ。
「彼女たちのことは気にしなくともいい。ぼくが金を融資したから、メイドを雇ってうまく切り盛りするだろう」
彼は慣れた手つきで横になったセシルに毛布を掛けるとそう言った。
あたたかな手がセシルの背中を撫でる。
カールトン卿は愛情深い男性だった。この世のものとは思えないほどの美しい容姿はもとより、洗練された立ち振る舞い。優しく慈愛に溢れたカールトン卿は何もかもが完璧だ。
しかし、与えられるぬくもりに身を委ねてはいけない。見るも無惨な容姿をした汚い自分は今すぐこの屋敷から――如いてはカールトン卿の元から去るべきなのだ。
「貴方様にそんなことまでしていただく義務はありません!」
カールトン卿の思わぬ融資を受けた彼女たちは味を占めたはずだ。これからもずっと、彼女たちはとてつもない額を要求するに違いない。もし、カールトン卿の全財産を彼女たちが搾り取ってしまったらどうしよう。そして彼が今のハーキュリーズ家のような末路を迎え、破産してしまったなら――。
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