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義務と理由。
恐ろしい光景が脳裏に過ぎる。セシルの顔は青ざめていく。
「そんなのだめですっ!!」
セシルは首を振り、カールトン卿の好意を拒んだ。自分の憐れな人生に彼を巻き込むのはあまりにも酷だ。
首を振り続けるセシルに、けれどもカールトン卿は頷かない。力強いその腕は、未だにセシルの痩せ細った身体を包み込んでいる。
「これは義務じゃない。ぼくがそうしたいと望んだことだ。とにかく、君には休息が必要だ」
「いいえ! 血の繋がりも無い赤の他人である貴方にそこまでしていただくなんて恐れ多いです。こんなに優しくしていただく理由は何もないんです」
彼とセシルはたった一度だけダンスを踊った、ただそれだけの関係だ。ここまで優しくしてもらう義理はない。だからセシルは彼の申し出に大きく首を振った。するとその拍子に、枕元に置いてあった一通の封筒がかさりと乾いた音を立て、落ちた。
――赤い薔薇の封蝋。これはセシルの大切な、ヴィンセントから届けられた手紙だ。
「もし、ぼくが赤の他人じゃなかったら?」
カールトン卿は困惑したように、頑なに彼の好意を拒絶するセシルの言葉を遮った。彼の手がセシルから離れ、床に落ちた一通の手紙を拾い上げた。
「えっ?」
彼はいったい何を言ったのだろう。
セシルの赤い唇はぽかんと開いたきり、何も言えなくなった。それをいいことに、カールトン卿は能弁に話しはじめる。
「ぼくが君の婚約者だと言ったら、君はどうする?」
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