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生きる糧。

「でも! それは僕の生い立ちのことで、貴方が気負う必要は何もありません」  セシルが首を振れば、カールトン卿の手が顎から離れた。それを残念だと思う自分がいたことに、セシルははっとした。  動揺するセシルの感情を知らないカールトン卿は、一度は閉ざした薄い唇をふたたび開く。 「セシル。君はね、肺炎を起こしかけていたんだ。そうなるまでぼくは君が苦しんでいる状況を野放しにしていた。君に必要なのは上っ面ばかりを書き綴った手紙なんかではなく、誰かの庇護だったんだ」  彼はそう言うと、手にしていた封筒をセシルに手渡した。 「いいえ、それは違います! だって僕はこの手紙があったからこそ、こうして生きてこられました」  自己嫌悪に陥っているカールトン卿にセシルは大きく首を振る。セシルは自分にとって、どれだけこの手紙が救いになったかをカールトン卿に伝えたいと思った。  ――彼は知らない。セシルがどれだけこの手紙を毎日待ち望んでいたのかを……。  継母たちからのいじめや貴族たちの自分を見る蔑んだ目。彼という存在にどれほど助けられたかを――。  この手紙がなかったら、すっかり打ちのめされ、自分は生きていられなかっただろう。  セシルはカールトン卿から受け取った手紙を胸の前で強く抱きしめた。 「セシル。本当に君っていう子はなんて可愛らしいんだろうね」  彼の大きな手が、丸まったセシルの背を優しく撫で続ける。目を細め、眩しいものでも見るような彼の視線がセシルを貫いた。

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