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頑な。
――顔が熱い。
セシルはあまりの恥ずかしさに顔を俯けた。
「その仕草もまた、可愛らしい」
みぞおちが熱い。――いや、みぞおちだけではない。頭のてっぺんから足のつま先まで、焼けるような狂おしい熱が身体中を覆う。
彼は人を褒めるのがとても上手い。同性の自分でもこうなるのだ。相手が女性ならのぼせ上がるに違いない。
それにしても、なぜ彼は自分を婚約者にしたのだろう。ハンサムな彼は地位も名誉もある。こんな気味の悪い自分をわざわざ相手に選ばなくとも、もっと他に相応しい女性がいるはずだ。
誰よりも紳士で美しい彼は何もかもが完璧だ。その彼が花嫁探しに苦悩しているとは思えないし、女性に不自由しているとも考えられない。
もしかすると、両親に彼の弱みを握られていたのだろうか。いや、母も父も温厚な性格で、そのような陰険なことをするとは思えない。けれども今にも消え逝きそうな自分の命を助けるためならばどうだろう。考えようによっては有り得ないことでもない。
となると、公爵ともなれば少しの汚名が命取りになる。だからカールトン卿はやむを得ず両親との約束を破れずにいるのだろうか。
それでも、両親はもうこの世から去ってしまった。天国に召した彼らの言葉を聞ける人間はいない。そんなに必死になって約束を守ろうとする必要は無いはずだ。
いや、愛情深い彼は見た目とは裏腹に頑固だ。身体が弱い自分を助けるために両親と約束を交わし、約束事だからと、彼は律儀に守ろうとしているのだ。
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