48 / 241
目覚めて。
Ⅶ
太陽の光が眩しい。
セシルが次に目を覚ましたのは、夜もすっかり明けた昼間のことだった。
ふと人の気配がして身体を傾けると、そこにはカールトン卿の姿はなく、代わりにいたのは一人の女性だった。
年は六十ほどだろうか。けれども老いた雰囲気は微塵も感じない。彼女は生気溢れるとてもユーモアな女性だと、ひと目見ただけでもすぐに理解できた。
たしか昨日、カールトン卿はこの屋敷に出入りする人間は少ないとそう言っていた。
ということは、彼女はカールトン卿のお母上だろうか。セシルがそう思ったのは、彼女の容姿がカールトン卿と似ていたからだ。
彼と同じプラチナブロンドにきめ細やかな乳白色の肌。ただ、彼と違うのは目の色だけだ。彼女の目ははしばみ色をしていた。
美しい中にも聡明さが窺えるのは、目尻や口元には小さな皺が刻まれているからだ。年齢はビオラよりずっと年上だと思うのにとても若々しい。そればかりか、蕩けるようなブラウンのハイネックドレスは彼女の柔らかな雰囲気をさらに魅せていた。
眼差しや仕草は慈愛に満ちていて、まるで聖母マリアのようだ。窓から差し込む太陽の光が身体の輪郭をなぞっている。
彼女はセシルが横になっているベッドの脇に椅子を置き、背にもたれてリンゴを剥いていた。その手つきはとても優しい。
「おはよう、気分はどう?」
雰囲気さながら、その声さえも柔らかい。目覚めたセシルに気が付いた彼女は声を掛けた。
「はい、昨夜よりもずっといいです」
ともだちにシェアしよう!