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自分の成すべきこと。
「そう、楽しんでいただけて光栄だわ。あの子を誘った甲斐があったわね。だけどまだ顔色が優れないわ。もうひと眠りなさい。ヴィンセントは書斎で仕事をしているのよ、それまでわたしが傍に就いていますから、安心してちょうだいね?」
彼女はセシルを労るようにしてぽんぽんと手の甲を叩いた。
実の母親以外の女性に優しくされるのは久しぶりだ。嬉しくて、セシルの顔に笑みがこぼれる。
「ありがとうございます」
その途端だった。セシルの腹が癇癪を起こした。静かな空間に大きな腹の虫が鳴る。
羞恥がセシルを襲い、彼女の様子を窺えば、けれども彼女は嫌な顔ひとつせず、目尻と口元に笑みを浮かべたままだった。
「お腹が空いた? それはとてもいいことね。今、ちょうどリンゴを剥いたのよ。すりつぶして来るから少し待っていてね」
二度、三度。彼女の手がセシルの手の甲を優しく叩く。宥めるその手つきはセシルをよりあたたかな気持ちにさせた。
――イブリンにすり潰して貰ったリンゴを食べ終え、もうひと眠りしたセシルが次に目を覚ましたのはすっかり日が暮れた頃だった。
どうやら熱は下がったようだ。身体の怠さはない。イブリンはセシルの体調を確認すると、夕食の準備に取り掛かるため、寝室を出て行った。
こうして晴れて自由の身になったセシルは見張り役がいなくなったことで、ほっと胸を撫で下ろした。
それからセシルは化け物のように醜い自分を看病してくれた二人に恩返しをするため、ベッドを抜け出した。
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