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世話焼き上手。
「いいえ、そんなわけにはいきません! 僕には返すものが本当に何もないんです」
――赤い髪に赤い目。人とは異なる自分は誰よりも醜い姿をしている。けれどもこんな化け物をカールトン卿とイブリンは労ってくれた。これまで世間から見放されてきたセシルにとって、二人から与えられた優しさはとてもかけがえのないものだった。ただそれだけに、どうやって他人の好意を返せばいいのかが判らない。だからセシルは唯一自分ができることのひとつを実行しようとしたのだ。
「言っただろう? 返すものなんて何もいらない。ああ、こんなに冷えてしまって……また風邪をぶり返してしまったら元も子もないだろうに……」
カールトン卿の腕が伸びる。彼の手がセシルの汚れた手を捉えた。
箒が乾いた音を立てて床に転がる。
大きな手がセシルのその手を包み込む。突然、彼から与えられた手の温もりに、セシルは戸惑った。
「あのっ! 手をっ……」
――離してほしい。でも離さないでほしい。恥ずかしいと思う一方で両極端なふたつの感情が生まれた。――そうかと思えば、セシルの身体が宙に浮く。カールトン卿に横抱きにされてしまった。
おかげでカールトン卿との距離がうんと近くなる。端整な顔立ちが間近に迫った。
「あ、あのっ!!」
セシルの胸がトクンと大きく高鳴る。
カールトン卿とイブリンの献身的な看病のおかげでいくらか下がったはずの熱は急激に上がり、セシルの心臓が早鐘を打つ。
「君は病み上がりなんだ。無理はいけない」
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