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もう大丈夫です!

「でも、もう熱は下がりました。身体だって今まで過ごしてきた中でずっと楽なんです」  だから下ろしてほしい。だから掃除をさせてほしい。セシルは顔を俯け、切に願う。けれどもカールトン卿はセシルの願いを聞き入れなかった。彼は首を横に振るばかりだ。 「ヴィンセントの言うとおりです。貴方はまだ休息が必要なのよ。さあ、寝室に戻ってお休みなさい」  そこにはいつの間にやって来たのだろう。イブリンもまた、踊り場に姿を現していた。そんな彼女もまた、カールトン卿と同じように眉間に深い皺をつくり、セシルを咎める。 「君には監視が必要だ」  カールトン卿は大きく頷いた。 「ええ、そのようね。ヴィンセント、セシルを貴方の部屋へ。食事は後で届けましょう」  困惑気味のセシルを尻目に、イブリンが同意する。  どうやらセシルには拒否権がないようだ。彼らは当の本人そっちのけで話を進めていく。  セシルは二人から責められ、もう何も言えない。顔を俯け口を閉ざしていると、ふいにカールトン卿が歩き出した。彼が向かう先はカールトン卿の寝室だ。  セシルは焦った。自分は五等爵の第三位、伯爵の地位ではあるものの、すでに破産してしまっている。階級は名ばかりのものだ。こんな貧しい自分が彼と同じ部屋で過ごすなんて不相応もいいところだ。  今日の夕刻までは高熱で倒れ、意識が混濁していたから仕方がなかったとはいえ、今はもう動けるまでに回復した。二人の好意にいつまでも甘えてばかりではいられない。

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