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彼女は邪魔者? それとも救世主?

 顔を上げれば、すぐそこにカールトン卿の美しい双眸がある。 「セシル……」  彼の人差し指がセシルの目尻に浮かぶ涙の雫をそっと弾く。 (カールトン卿……)  目尻を拭ったその指がセシルの顎を固定した。  サファイアの瞳が戸惑うセシルを写す。  身体が熱い。  焼けてしまいそうだ。  けれどもこの熱は病気のせいではない。恥ずかしいという気持ちともうひとつ、得体の知れない感情が胸に宿っていた。  今すぐ目を逸らしたい。けれども美しい彼から目が離せない。  知らなかった。カールトン卿の睫毛がこんなにも長いなんて――。  それにサファイアの瞳は暖炉の炎で揺れているようにも見える。  まるできらきら輝くダイヤモンドのようだ。  セシルはカールトン卿の容姿にすっかり心奪われていた。 「セシル……君はぼくをどうしたいんだろうね」  彼の手の甲がセシルの頬を撫でる。  熱に侵されたその目でぼうっと見つめていると、彼は困ったように笑った。  ――果たしてカールトン卿は何と言ったのだろう。彼の言った意味が判らず、セシルが小首を傾げると、ちょうどのタイミングでノック音がした。 「ヴィンセント、今いいかしら」 「母上、どうぞ」  イブリンの呼びかけに応えたカールトン卿の合図で、彼女は寝室に入ってきた。両手にはトレーを持っている。  ――それはほんの少し前。彼女はカールトン卿の寝室に夕食を運ぶと言っていた。そんなこともすっかり忘れてカールトン卿に見惚れていただなんて――。  セシルは自分の気持ちがそぞろになっていたことをあらためて知った。 「まあ、お邪魔だったかしら?」 「いえ、助かりました」

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