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男子にとって『可愛い』は褒め言葉じゃないよ?

 イブリンの言葉を引き金にして、カールトン卿がセシルから離れた。するとセシルはまたもや彼の体温が恋しいと思ってしまった自分に気付いた。 「そうかしら、貴方は慎重になりすぎているのではなくて?」  またしても自分はカールトン卿に抱きついてしまった。セシルは恥ずかしさに耐えきれず、顔を俯けた。そのまま二人の会話に耳を傾ける。  けれども彼らはいったい何のことを話しているのだろう。慎重になりすぎるとはどういうことなのか。セシルには二人の会話が今ひとつ理解できない。 「あの、今日はいろいろありがとうございました」  どうやら二人の話は終わったらしい。緩やかな沈黙がほんの少し生まれた。そしてセシルは一日中、イブリンにうんとお世話になったのに、礼のひとつも言っていないことに今さら気が付いた。  セシルはイブリンにお辞儀をした。 「いいのよ、わたしが好きにしていることだから気にしないで。貴方のような可愛らしい子がこの屋敷に来てくれたこと、とても感謝しているの」 「そんな……」  自分は十八にもなる男子だ。『可愛い』は褒め言葉にはならない。けれども彼女の年齢から考えると、セシルはまだまだ子供だ。それにイブリンの微笑みはセシルの心を穏やかにさせる効果がある。まるで母親と話しているような錯覚さえ受ける。可愛いと言われて少しも不快にならないのは、自分という存在が愛されているように思えるからだ。胸の奥がくすぐったい。

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