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あ~ん。
「さあさあ、夕食にしましょう。今日は張り切って作ってみたの。お口に合うといいのだけれど」
彼女はトレーをナイトテーブルに置いた。
大きめの器にはスープリゾットが湯気を立てている。彼女の心配りだろう、具は病み上がりのセシルでもきちんと消化しやすいよう、大根と人参が小さく刻まれていた。しかし器はどう見ても一人分しかない。
「あの、カールトン卿は食べられないんですか?」
「ぼくは先にいただいた。もうお腹いっぱいだ」
「ヴィンセントはいつもこうなのよ。せっかく作ったのに小食で困るわ。さあ、遠慮しないで食べてちょだいね。作り手には食べてくれるのが何よりも嬉しいことなのだから」
セシルがトレーの端っこに置かれているスプーンに手を伸ばす。けれどもそれよりも先にカールトン卿が動いた。彼は、手にしたスプーンでリゾットを掬い上げた後、いくらか息を吹きかけて下唇に当てた。
「はい、どうぞ」
やはり彼もお腹が空いているのかと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。セシルの口元にスプーンが運ばれた。
カールトン卿はこれをどうしろと言うのだろう。
「えっ? あの、自分で食べられます」
セシルが手を伸ばし、カールトン卿からスプーンごと受け取ろうとすると、彼は小さく首を振った。
「でも残念なことに、君の手にはクリームが塗られているからね」
カールトン卿はなんだかとても楽しそうだ。口角が上がっている。
この年になって他人に食べさせて貰うなんて恥ずかしい。できることなら一人で食べたい。
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