60 / 241

あ~ん。

「さあさあ、夕食にしましょう。今日は張り切って作ってみたの。お口に合うといいのだけれど」  彼女はトレーをナイトテーブルに置いた。  大きめの器にはスープリゾットが湯気を立てている。彼女の心配りだろう、具は病み上がりのセシルでもきちんと消化しやすいよう、大根と人参が小さく刻まれていた。しかし器はどう見ても一人分しかない。 「あの、カールトン卿は食べられないんですか?」 「ぼくは先にいただいた。もうお腹いっぱいだ」 「ヴィンセントはいつもこうなのよ。せっかく作ったのに小食で困るわ。さあ、遠慮しないで食べてちょだいね。作り手には食べてくれるのが何よりも嬉しいことなのだから」  セシルがトレーの端っこに置かれているスプーンに手を伸ばす。けれどもそれよりも先にカールトン卿が動いた。彼は、手にしたスプーンでリゾットを掬い上げた後、いくらか息を吹きかけて下唇に当てた。 「はい、どうぞ」  やはり彼もお腹が空いているのかと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。セシルの口元にスプーンが運ばれた。  カールトン卿はこれをどうしろと言うのだろう。 「えっ? あの、自分で食べられます」  セシルが手を伸ばし、カールトン卿からスプーンごと受け取ろうとすると、彼は小さく首を振った。 「でも残念なことに、君の手にはクリームが塗られているからね」  カールトン卿はなんだかとても楽しそうだ。口角が上がっている。  この年になって他人に食べさせて貰うなんて恥ずかしい。できることなら一人で食べたい。

ともだちにシェアしよう!