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イブリンのお願い①

 イブリンは火の側でうんうんと呻っている。  なにせこの屋敷では彼女が料理長だ。相手が誰であろうと彼女に逆らうことはできないし、彼女がいなければ夕食の準備ができない。 「じゃあ、僕がカールトン卿に渡してきます」  途方に暮れている彼女に、セシル自ら手紙の配達役を買って出た。するとイブリンは満面の笑みを浮かべ、頷いた。 「お願いできる? もしかすると、ヴィンセントはこの時間なら庭にいるかもしれないわ。ああ、でも外は冷えるわね、ちょっと待っていてちょうだい。実のところ、あの子がこの時間帯に顔を出さないのはセシルとの時間を邪魔されないようにわたしが先手を打っていたからなの。だってお嫁さんとこうして遊ぶのがわたしの夢だったんだもの」  彼女は悪戯っぽくウインクして付け加えると、キッチンから姿を消した。  イブリンはとてもチャーミングだ。愛情にあふれた可愛らしい女性だった。しかし、自分とカールトン卿は同性だ。自分はけっして嫁とは言えないし、何より世間が許さない。彼と夫婦になるのは常識外れにもほどがある。それなのに、彼女の言葉は少しも不快ではない。それどころか、彼女の言うとおり、自分はカールトン卿と一緒になるのが当然のように思えてくる。  ーーいや、そんなことがあってはならない。セシルは生まれ出たおかしな考えにそうではないと首を振った。  間もなくして一度はキッチンから姿を消したイブリンの軽快な足音が近づいてきた。その足音を聞いているだけで、セシルの胸があたたかになる。唇には笑みがこぼれていた。

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