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逸る気持ち。
Ⅹ
カールトン家の屋敷は恐ろしいくらい広い。それは一階だけでも移動が一苦労なほどだった。
キッチンフロアを抜けると晩餐室があり、そこを抜けるとたくさんの客人を招くことができる大広間、さらに進むと右側に女性用。左側に男性用の応接室が壁で仕切られ、隣り合わせになっている。そしてそれらの部屋を抜けるとようやく玄関ホールが見えてくる。
そんなだから、屋敷を囲っている庭もまた広い。けれどもカールトン卿がいる場所はもうすでに判っている。彼は東の庭にいるそうだ。イブリンが言うには、そこがカールトン卿のお気に入りの場所らしい。
今夜も冷える。
セシルは玄関ホールを抜け、東の庭に向かった。
地面に敷き詰められた芝生はまるで絨毯だ。
空はすっかり藍色に染まり、頭上には数え切れないほどの星々が瞬いている。
そういえば、カールトン卿と出会った夜もこんな寒い日だった。
セシルは彼とはじめて出会ったあの日の夜を思い出した。
目を閉じれば聞こえてくる、軽快な音楽とコオロギたちの虫の音。その音に乗ってセシルは彼にリードされるまま、ダンスを踊る。
軽やかなステップが円を描き、セシルを中心にして世界が回る。サファイアの瞳が写すのは、目の前にいるセシルのみ。そしてセシルもまた、彼のみを眼に写すのだ。
華麗な音楽と幻想的な世界。
セシルは大きなため息をつくと歩く足を速めた。
彼との距離は目と鼻の先だ。それなのに、なぜ自分はこうもカールトン卿に早く会いたいと急いてしまうのだろう。
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