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過保護③

「……あれ?」 「セシル、怪我は?」  掛けられた声は思いのほか近い。そう思ったのは自分の気のせいだろうか。  セシルは恐る恐る閉じた瞼を開けた。するとそこには自分を見上げる彼の顔があるではないか。  彼は眉間に深い皺を刻ませている。とても心配そうだ。  自分の身にいったい何が起こったのだろうか。  なぜ、自分はカールトン卿を見下ろしているのだろう。いつの間に彼よりも背が高くなったのか。  そしてなぜこうも座っている箇所があたたかく、人肌のように弾力があるのだろう。果たして地面とはこんなにあたたかく弾力のある感触だっただろうか。  疑問が疑問を呼ぶ。半ばパニックに陥りかけているセシルはカールトン卿から視線を逸らし、次にあたたかな温度を感じる太腿を見下ろした。その途端、セシルは絶句した。  ーーああ、なんということだろう。自分は今、カールトン卿の腰に跨り、座っているではないか。  しかも、彼を押し倒すような格好で、だ。  これは恥ずかしいにもほどがある。 「うっ、わわっ、あの、ごめんなさいっ!」  セシルは慌てた。彼から身を引こうと腰を浮かせる。するとセシルの意図とは逆の力が働いた。力強い彼の腕が伸びてきたかと思えば後頭部に手が回る。おかげでセシルはそのまま目の前にある分厚い胸板に引き寄せられてしまった。 「えっと、あのっ!!」  いくら自分が細身でも体重は大人並みにあるし、この体勢はなんだかとても猥りがわしい気がする。セシルは焦るものの、けれども彼に後頭部を押さえられては引くに引けない。

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