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過保護④

(どうしよう!)  頭の中が真っ白になる。 「脳しんとうを起こしているかもしれない。もう少しじっとしていた方がいい」  ――いったいカールトン卿は何と言っただろうか。  セシルがハーキュリーズ家にいた頃はビオラやロゼッタにさんざん扱き使われてきた。だから日頃から病弱な自分は頻繁に熱を出し、それでもなんとか家事をこなしていたあの頃ーー。こうやって何度体勢をくずし転倒したことか。その回数は計り知れない。  けれどそんな中でも脳しんとうの症状は出なかったし、況してや今はカールトン卿がセシルの下敷きになってくれている。だからそんなたいそうな大事には至らない。  脳しんとうを起こすとすればそれはセシルではなく、むしろ自分を助けたカールトン卿の方だ。――にも関わらず、彼はセシルを気に掛ける。  カールトン卿はとても心配性だった。 「あ、あの。僕は大丈夫です……」 「果たしてそうかな。君はとても細いからね」  転けた本人が大丈夫だと言っているのに、彼はそれを否定する。  カールトン卿が何かを言うそのたびに、彼から振動が伝わってくる。  その振動がとても優しくて、不思議なことに、セシルの焦りはまたたく間に消えていった。  なぜだろう。彼とこうしていることこそが正しいと思えるのは――。  なぜだろう。彼といると、こんなに安心してしまうのは――。  ベルベットのような耳障りの好い低音が心地良い。カールトン卿の声音にすっかり聞き惚れたセシルはうっとりと目を閉ざす。 「そもそも君はなぜぼくを探していたんだい? こんな薄手で!!」  彼のその言葉で、セシルは、はっとした。

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